2011年02月12日

「同時打鍵」は魔法の呪文ではない。

何かと話題の「同時打鍵」という用語について改めて言及します。

そもそも同時打鍵とは、「文字の入力キー」と「シフトを行う機能キー」を同時に打鍵することで、シフト側の文字を1アクションで入力する行為を指します。私自身は平成元年からずっと使い続けて今年ではや23年目。随分と長い付き合いになりました。

で、本来の意味をちゃんと確かめておこうと、久しぶりに親指シフトの元祖・ 日本語入力コンソーシアム同時打鍵の説明 を眺めたら、これがひどい。

打鍵数の削減による作業軽減

親指シフト入力は、すべてのかなを1回の打鍵で入力することができます。ローマ字入力では、濁音・半濁音・拗音などを入力する際、2回または3回の打鍵が必要となります。親指シフトの場合はこれも1回の打鍵で済んでしまいます。すなわち、親指シフトは最も少ないキーの打鍵数で、スムーズな入力ができるわけです。これは、所要時間についても2回、3回の打鍵をするローマ字入力に対し、親指シフトは1回の打鍵で済んでしまうので、そのスピードの優位制は断然に勝っています。

打鍵数の削減による作業軽減

拗音の比較はフェアじゃないし、専用キーボードについて記したページでは 夢のキーボード なる表現まで飛び出して、開いた口がふさがりません。こんなどこまでも ローリスク ノーリスク・ハイリターンな説明を、このご時世に真に受ける人がいるのでしょうか。「親指シフトの同時打鍵」は、全てを解決して薔薇色の明日を約束する「魔法の呪文」ではないはずです。

打鍵数をいろいろな日本語配列で比較する

打鍵数の定義

打鍵数という用語を、本稿では次の2種類に分けて定義します。

名目打鍵数
シフトの打鍵を含まない、見かけ上の打鍵数
文字の入力キーの打鍵数
Nicola が言う打鍵数
kouy さんの言う動作数
単位はストローク
実質打鍵数
シフトの打鍵を含んだ、全ての打鍵数
文字の入力キーの打鍵数+シフトを行う機能キーの打鍵数
アンチが言う打鍵数
kouy さんの言う総打数
単位はキー

合わせてキーストロークとすると違う意味になってしまいますが、打鍵数の説明でお互いに譲らないシンパとアンチ双方の主張を最大限に汲んでみました。

札幌でチームに合流した。

ちょっと意地悪な文例ですが、「札幌でチームに合流した。」と入力した場合の打鍵数を、この名目打鍵数と実質打鍵数に分けて比較します。


シフトキー シフトの
掛かり方
都度
or
連続
名目
打鍵数
(strokes)
実質
打鍵数
(keys)
備考
qwerty ローマ字 文字列(任意) 前置 都度 28 28 行段系
拗音分置
JISカナ 小指 押下 連続 20 23 (半)濁点後置
新JIS 小指 押下
前置
連続
都度
20 25 (半)濁点後置
月配列 2-263 文字列(中指) 前置 都度 25 25 (半)濁点後置
虞美人草 文字列(中指)
親指
前置
同時
都度 25 27 半濁点後置
下駄配列 文字列(任意) 同時 都度 16 22 拗音分置
新下駄配列 文字列(任意) 同時 都度 16 22 拗音分置
Nicola 親指 同時 都度 17 27
Tron 親指 押下 連続 18 27 半濁点後置
飛鳥配列 親指 押下 連続 17 23
小梅配列 親指 同時 都度 17 24

指折り数えているので、間違いを見付けたら教えてください。

同時打鍵の抱える重い負担

実質打鍵数で qwerty ローマ字と Nicola を比較すると、28キー対27キーでたった1打鍵しか削減できないことが分かります。拗音を含む「ごうりゅう」だけを見ても、qwerty ローマ字が[G][O][U][R][Y][U][U]で7ストローク/7キーなのに対して、Nicola は[R右][A][E左][F左][A]で5ストローク/8キーと、実質打鍵数はむしろ増加しています。

さらに同時打鍵系が厄介なのは、たとえば Nicola では、実質打鍵数 28 キー分の負荷を、名目打鍵数の 17 ストロークで負担しなければならないこと。単純計算で28/17≒1.65倍もの負荷が指や手、腕全体に掛かってくるのですから、特に同手シフトの重い打鍵負担を嫌う人が出てくるのも当然ですし、対策を怠ると腱鞘炎などの機能障害を招きかねません。

Nicola や Tron に専用キーボードが必須なのは、「B割れじゃなきゃダメ」とかいう水平方向のみならず、重い打鍵負担をキータッチの軽さで緩和するという、垂直方向にも理由があるのです。

蛇足ながら、飛鳥配列と小梅配列は、親指シフト(の同時打鍵)を汎用的なJISキーボードでも利用できるよう、水平・垂直両方向の課題を、論理配列やシフト方式の見直しによって解決しようとしています。

下駄配列系は他手シフトが基本のようですから、打鍵負担の重さを同手シフトほど気にしなくてもいいのかも。

Nicola の本当の罪!?

Nicola が本当にノーリスク・ハイリターンな日本語配列だったら、とっくに qwerty ローマ字入力を駆逐していたはず。そうならなかったのは、誠に残念ながら qwerty ローマ字入力の方が優れていると市場が判断したからに他なりません。

そもそもの始まりが嘘だったと仮定すると、その被害者が同じ嘘を再生産するのは自己正当化という極めて自然な行為に思えます。「親指シフトのコミュニティ」が耳を閉ざしてオウム返しに陥ってしまうのは、このノーリスク・ハイリターンなプレゼンにも原因があるのかもしれません。

ということで、同時打鍵は魔法の呪文ではありません。

ラベル:親指シフト Nicola
posted by 141F at 03:31| Comment(0) | TrackBack(2) | oyayubi | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Weblog: 姫踊子草の楽屋裏
Tracked: 2011-02-16 00:17

「同時打鍵」は魔法の呪文ではない。(続)
Excerpt: 日本語入力コンソーシアムから、Nicola と他配列の打鍵数比較 を引用します。
Weblog: Weblog 61℃
Tracked: 2011-02-17 01:43