2014年11月10日

利き手と左右別の打鍵頻度の関係を再考する

やり残していた宿題を一つ片付けます。今さら感が無きにしも非ずですが、しばしお付き合いください。

利き手と左右別の打鍵頻度の関係は、何度も話題に上るわりに、すっきりとした解を得られないまま尻切れトンボで終わってしまう、永遠の課題の一つです。私もこんなグラフを持ち出して「打鍵数=負担度ではない」と主張したりもしましたが、負担係数がどうのと言ったところで、謎は深まるばかり。

左右別の打鍵頻度グラフ

左右別の打鍵頻度グラフ

今だから分かること。「同時打鍵」という魔法の呪文に惑わされて、肝心なものが見えていませんでした。

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飛鳥カナ配列と Tron 2005-1011 の実質打鍵数

重い腰を上げて 飛鳥カナ配列Tron 2005-1011 の実質打鍵数を計算したら、実に興味深い数値が出てきました。

念のため、私は打鍵数という用語を、次の2種類に分けて定義しています。

名目打鍵数
[文字]キーと[シフト]キーの同時打鍵を1打と数える
文字の入力キーの打鍵数
同時打鍵のシフトを含まない、見かけ上の打鍵数
Nicola(日本語入力コンソーシアム) が定義する打鍵数
単位はストローク
実質打鍵数
[文字]キーと[シフト]キーの同時打鍵を2打と数える
文字の入力キーの打鍵数+シフトを行う機能キーの打鍵数
同時打鍵のシフトを含んだ、全ての打鍵数
Nicola が見なかったことにしている(隠蔽している)打鍵数
単位はキー

同時打鍵が発生しない qwerty ローマ字配列では、名目打鍵数と実質打鍵数が一致します。

例によって 10万字サンプル を用いて紐解きます。対象としたのはカナと句読点及び長音の合計 101,156 字で、「。、ー」以外の記号や英数字は割愛しています。

名目打鍵数

親指シフトの日本語配列はどれも、入力文字数と名目打鍵数が一致します。


名目打鍵数
strokes Nicola比 小梅比 新下駄比 qwerty比
Nicola 配列 101,156 100.0% 100.0% 102.6% 57.3%
Tron 2005-1011 101,156 100.0% 100.0% 102.6% 57.3%
飛鳥カナ配列 101,156 100.0% 100.0% 102.6% 57.3%
小梅配列 101,156 100.0% 100.0% 102.6% 57.3%
蜂蜜小梅配列 98,619 97.5% 97.5% 100.0% 55.8%
新下駄配列 98,620 97.5% 97.5% 100.0% 55.8%
qwertyローマ字配列 176,678 174.6% 174.6% 179.1% 100.0%
実質打鍵数

親指シフトの日本語配列では、名目打鍵数と実質打鍵数の差がそのまま[親指キー]の打鍵数となります。


実質打鍵数
keys Nicola比 小梅比 新下駄比 qwerty比
Nicola 配列 143,825 100.0% 105.0% 112.7% 81.4%
Tron 2005-1011 126,509 88.0% 92.3% 99.1% 71.6%
飛鳥カナ配列 151,837 105.6% 110.8% 118.9% 85.9%
小梅配列 136,990 95.2% 100.0% 107.3% 77.5%
蜂蜜小梅配列 133,254 92.7% 97.3% 104.4% 75.4%
新下駄配列 127,673 88.8% 93.2% 100.0% 72.3%
qwertyローマ字配列 176,678 122.8% 129.0% 138.3% 100.0%
打鍵効率と同時打鍵率

打鍵効率は「実質打鍵数/入力文字数」で、1字を入力するのに何打鍵が必要なのかを示します。また、同時打鍵率は「実質打鍵数/名目打鍵数−1」で計算した、同時打鍵が相対的にどれだけ発生しているかを示すパラメータです。


打鍵効率 (keys/字) 同時打鍵率
Nicola 配列 1.422 42.2%
Tron 2005-1011 1.251 25.1%
飛鳥カナ配列 1.501 50.1%
小梅配列 1.354 35.4%
蜂蜜小梅配列(タイプ・アシスト利用なし) 1.317 35.1%
蜂蜜小梅配列(タイプ・アシスト利用あり) 1.303 33.6%
新下駄配列 1.262 29.5%
qwertyローマ字配列 1.747 0.0%

蜂蜜小梅配列において、単独の捨て仮名「ぁぃぅぇぉゃゅょゎ」と半濁音「ぱぴぷぺぽ」は、文字キー同時シフトで入力した前提です。また、特記した項目以外は、タイプ・アシストを使わない条件で計算しています。

清濁同置でも新下駄配列を超える軽快さを見せる Tron 2005-1011 と、清濁分置でも打鍵数が多い飛鳥カナ配列。結果は予想以上に両極端でした。

Tron 配列のこの軽快さは、「な」を[B]キーに、「ら」を[Q]キーに置くなどのトリッキーな配置と引き換えに得られた果実。現在の私が使ったら、イカレた左差指が痛い目に合うのは火を見るよりも明らかで、究極のドS配列と呼びたくなります。

親指キー連続シフトの打鍵負担

一方、飛鳥カナ配列は「2回に1回が2キー押し下げ」になる計算で、「指の筋トレに最適」と言いたくなるようなデータの羅列は、至高のドM配列と呼ぶのに十分です。

「2回に1回が同時打鍵になる」ではなく、「2回に1回が2キー押し下げとなる」とわざわざ書いたのは、ご存知の通り、飛鳥カナ配列が親指キー連続シフトを採用しているから。

親指キー連続シフトの打鍵は、次の3つの位相に分けることができます。

親指キー無シフトの打鍵
親指は[親指キー]に常に乗っている(拘束されている)
[文字キー]の打鍵負担のみ。[親指キー]の打鍵負担はゼロと見なす
親指キー同時シフトの打鍵
[文字キー]と[親指キー]を同時打鍵
同時打鍵する運動力の資源は、筋力(握力)+重力+慣性力
打鍵負担は「都度シフトの親指キー同時シフト」と同じく2キー分
同手シフトは2キー分の打鍵負担を片手で負担する
親指キー押下シフトの打鍵
同じ手のシフト(左シフト|右シフト)が続く間ずっと、左または右の[親指キー]を押し下げたまま[文字キー]を打鍵
連続シフトの1字目は同時シフト、2字目以降は押下シフト
2字目以降の押下シフトの資源は、押したままの状態を維持する筋力(握力)のみ
押下シフトの打鍵負担は無シフト以上、同時シフト未満

実質打鍵数の計算は連続シフトを考慮していませんが、飛鳥カナ配列が名目打鍵数101,156ストロークを入力する時間で、実質打鍵数151,837キー分の押下負荷を担わなければならないことは、連続シフトの有無に関わらず同じです。

連続シフトの採用で実際の負担をどれだけ減らすことができるのか。それを知るには「親指キー押下シフト」位相時の負担が具体的にどれぐらいなのか、数値で示すことが必要ですが、残念ながら私にはできません。同時打鍵が連続してバタバタするより楽なことは明白ですから、「連続シフトはシフトの変動が減るから楽」とする /sleepw.lk/ 氏の言に、私も賛意を表してきました。

仮にその負担をゼロ(無シフトの打鍵負担に等しい)と見なすならば、飛鳥系の日本語配列では「親指キー連続シフトの打鍵」が概ね15%ほど生じていることが分かっているので、トータルの打鍵負担は小梅配列より軽い計算になります。しかしながら、ゼロとするのはさすがに無理があるので、飛鳥カナ配列と小梅配列のトータルの打鍵負担はほぼ同じぐらいとするのが妥当ではないかと現在は考えています。

左右別に見た打鍵負担

次に実質打鍵数を左右別に分解します。

左右別の打鍵頻度グラフ(親指キー除く)

左右別の打鍵頻度グラフ(親指キー除く)

当時はこんなデータしか提示できなかったので、議論が迷宮入りするのもやんぬるかな。飛鳥カナ配列は「右手偏重が著しい」と多々言われてきましたが、Rayさんや私も含めてどいつもこいつも、[親指キー]の打鍵が魔法の呪文で見えなくなっていた、と言うしかありません。

魔法の呪文を解いたのが、次のグラフです。

左右別の打鍵頻度グラフ(親指キー含む)

左右別の打鍵頻度グラフ(親指キー含む)

「飛鳥カナ配列は右手偏重が著しい」のではなく、右利きの人が普通のキーボードで親指キー同時シフトの配列を使おうとしたら、左:右=42:58前後の比率に収束することが、グラフから一目瞭然です。強い親指はシフト操作という重い負担を人知れずこなしてきましたが、使えば使っただけ疲弊するのは他の指と同じだった。そんなことをこのグラフは語っています。

左:右=42:58

ところで、普通のキーボードで親指シフトする飛鳥系・小梅系の各配列と、qwerty ローマ字配列の左右打鍵比率が近似しているのは偶然なのでしょうか。

相沢かえで さんが 2007/04/27付の記事 で、次のように記しています。

 今まで普及してきた配列で「右利きにとって不利にならない」キー配列って、実はただの一つもなかったのかも……。

あ゛。

 「右利きにとって不利にならない」キー配列って……もしかして、それが「JISX4063/Qwertyローマ字入力」だった……とか?

 「JISX4063/Qwertyローマ字入力」の左右打鍵比率については調査したことがないので不明ですが、似た配列(?)の「ロマかな配列」に限れば【左:右=42:58=1:1.38】だったりします。

 ……まさか、ねぇ……。

 ……というか、単にこれだけの理由で「JISX4063/Qwertyローマ字入力」が普及したと仮定すると、これはもう泣くに泣けないというか……。

左:右=42:58は、そもそも利き手がどっちだとか、論理配列がどうだとか、「そんなの左右比率に関係ないんじゃね?」というデータなのかもしれません。私が「普通のキーボード」と呼んできた大量生産品の qwerty キーボードに最適な左右比率が42:58だった、みたいな。

と書いたところで、英文× qwerty キーボードの左右比率を調べてみたら、そのものずばりの情報には出会えてませんが、どうも左手側の方が多そうです。

一謎去ってまた一謎という感じですが、本日はここまで。

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posted by 141F at 01:25| Comment(2) | TrackBack(0) | oyayubi | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
初めまして。
つい最近親指シフトと言う物を知り、これについていろいろ調べているうちにこちらの蜂蜜小梅配列を知り、少しずつ練習をしているところです。
この蜂蜜小梅配列は覚えやすいとのことですが、どの点が覚えやすいのかよろしければ聞かせて頂けないでしょうか。
蜂蜜小梅配列について不満があってこの様な事をお尋ねしているわけではなく、何故覚えやすいのかという理屈を知る事が出来れば、蜂蜜小梅配列の配列が覚えやすいのではないかと思いこの様な事をお尋ねしました。
ご返信頂けたら幸いです。
Posted by ぷりん at 2015年02月22日 00:07
コメントに気付くのが遅くて申し訳ありませんでした。

蜂蜜小梅配列が覚えやすく忘れにくいのは、清音と濁音、拗音を同じキーに配置する「清濁拗同置」を
配字ルールの中心に据えたからです。

詳細は下記サイトをご覧ください。

蜂蜜小梅配列<清濁拗同置のハイブリッド同時打鍵>
http://homepage2.nifty.com/61degc/reports/83koume/index.html
Posted by 141F at 2015年03月26日 01:32
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