2021年11月11日

路傍のJISキーボードこそ愛しけれ(序)

大岡さんの疑問に寄り添います。

Microsoft IME は、遡ること Windows 3.1 の時代に MS-IME という名前で生まれました。当初の MS-IME は、エー・アイ・ソフトが発売していた WX シリーズ の OEM 版だったことがよく知られています。MS-DOS 最後発の日本語FEPだったWXシリーズは、最小コスト法という新たな変換アルゴリズムと、マルチAPIと称した他社製品との親和性の高さ、そしてカスタマイズ性の高さで人気を博し、Windows の時代になってもパッケージソフトウェアとして足跡を残しました。

他社製品との親和性とは何か。今と違って MS-DOS 時代のアプリケーションは、 例えば一太郎(というワープロソフト)は同じジャストシステム製のATOK(というFEP)とセットで使うことが求められ、同様に管理工学研究所の「松」(というワープロソフト)は松茸(というFEP)と、サムシンググッドの忍者(というデータベースソフト)は刀(というFEP)とセットで使わないとダメ。他社製FEPと組み合わせると、アプリケーションに機能制限が生じてしまう、というのが当時の常識でした。各社が競い合って開発・進化させていくので、囲い込みも絡んで、FEPもアプリも操作方法はてんでんばらばら。育てる辞書も別々なので、使いこなすのは本当に大変でした。

そこでWX シリーズは、明示的にスイッチを切り替えることで、対アプリケーション側では一太郎の前ではATOKになりすまし、忍者の前では刀になりきる。また対ユーザー側でも、ATOKに慣れた人にはATOK風の操作方法を提供し、VJEユーザーにはVJEっぽくふるまう、言わば両方向に「擬態」することで、どのアプリケーションを使う時でも機能制限を受けることなく、日本語入力時の操作方法が統一できて、さらに辞書も一本化できるソリューションを提供しました。有料でも、そら売れますって。

翻って MS-IME は、ATOK に VJE 、松茸、刀、EGBridge、DFJ 等々と百花繚乱だった MS-DOS 時代の各社FEP に慣れた人々を、Windows という新しいステージにソフトランディングさせるために、WXシリーズの「擬態」能力を活かしました。しかも無料で。Microsoft が IME を独自開発するようになってからも、ATOK VJE WX の各スタイルが残されています。一方で、有料の IME として生き残っているのは ATOK だけとなって幾星月。

悪貨が良貨を駆逐する

MS-DOS(PC-9801)時代に一世を風靡した日本語ワープロソフト「一太郎」とそのFEP「ATOK」の二大発明が、「ESCメニュー」と「スペースで変換する」でした。識者から「(意味性を無視した)とんでも発明」とディスられても、その分かりやすさが市場で圧倒的に支持されました。一太郎は Windows 時代に入って MS-Word に淘汰されましたが、「スペースで変換する」はデファクトスタンダードの座を未だ守り続けています。

日本語入力とWindows という名の桃源郷≒カオス

  • OADGキーボードが、後にJISキーボードと呼ばれるようになった。
  • OADG協議会は、基本的にはハードウェアヴェンダーの集まりだった。
  • ハードウェアメーカーは、PCの「器」のみを提供した。
  • その器には、Microsoft の OS「Microsoft Windows」がプリインストールされた。
  • 日本語入力のしやすさを競うことは、コストアップ要因になりこそすれ、売り上げ増には結び付かない。
  • ハードウェアメーカーにとっては、コスパこそ最大の差別化だったり。
  • ってことで「仏作って魂入れず」状態が Windows 3.1 の時代から延々と続く。
  • でも、そこに器がある。素材がある。やるも、やらないも、自由だ。
  • やる気になれば、扉はいつでも開いている。インストールするだけで使えるアプリもあれば、ファームウェアを弄ぶことだってできる。
  • [無変換][変換]の二つのキーを、大きな可能性を秘めた手付かずの大自然ととらえるか、無能の極みと切り捨てるか。それも自由だ。
  • 沼に溺れるのもお好きなように。

後方互換を重視する PC と Microsoft

  • 2021年に販売されているPCにも、PS/2ポートやVGAポートがまだまだ残っている。AT端子は流石に見ない。
  • 探せば RS-232C やパラレルポート、SCSI なんていうレガシーデバイスがまだ使えたり。
  • ワードスター準拠のダイヤモンドカーソルが使えたり。
  • Lotus 1-2-3 準拠の「/」(スラッシュ)メニューが excel で使えたり。
  • Windows 10 でも DOS 窓を開けば MS-DOS 時代のコマンドが使えたり。
  • DOS/V 用アプリケーションも動くかも。一太郎とか Lotus 1-2-3 とかも。ただし、印刷できるかは謎。
  • 16bit アプリの「親指ひゅんQ」も、デスクトップアプリ上ではまだ使えるかも。※未検証です。
  • 方や ADB ポートとか Firewire なんかは既に絶滅した?
  • リマッパーの屍の累々。

デザインを牢獄と慄くか、カオスを無能と罵るか

それは私たちの人生の選択そのものだ。本日はここまで。

posted by 141F at 03:56| Comment(0) | oyayubi | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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