大岡さんの疑問に寄り添います。
Microsoft IME は、遡ること Windows 3.1 の時代に MS-IME という名前で生まれました。当初の MS-IME は、エー・アイ・ソフトが発売していた WX シリーズ の OEM 版だったことがよく知られています。MS-DOS 最後発の日本語FEPだったWXシリーズは、最小コスト法という新たな変換アルゴリズムと、マルチAPIと称した他社製品との親和性の高さ、そしてカスタマイズ性の高さで人気を博し、Windows の時代になってもパッケージソフトウェアとして足跡を残しました。
他社製品との親和性とは何か。今と違って MS-DOS 時代のアプリケーションは、 例えば一太郎(というワープロソフト)は同じジャストシステム製のATOK(というFEP)とセットで使うことが求められ、同様に管理工学研究所の「松」(というワープロソフト)は松茸(というFEP)と、サムシンググッドの忍者(というデータベースソフト)は刀(というFEP)とセットで使わないとダメ。他社製FEPと組み合わせると、アプリケーションに機能制限が生じてしまう、というのが当時の常識でした。各社が競い合って開発・進化させていくので、囲い込みも絡んで、FEPもアプリも操作方法はてんでんばらばら。育てる辞書も別々なので、使いこなすのは本当に大変でした。
そこでWX シリーズは、明示的にスイッチを切り替えることで、対アプリケーション側では一太郎の前ではATOKになりすまし、忍者の前では刀になりきる。また対ユーザー側でも、ATOKに慣れた人にはATOK風の操作方法を提供し、VJEユーザーにはVJEっぽくふるまう、言わば両方向に「擬態」することで、どのアプリケーションを使う時でも機能制限を受けることなく、日本語入力時の操作方法が統一できて、さらに辞書も一本化できるソリューションを提供しました。有料でも、そら売れますって。
翻って MS-IME は、ATOK に VJE 、松茸、刀、EGBridge、DFJ 等々と百花繚乱だった MS-DOS 時代の各社FEP に慣れた人々を、Windows という新しいステージにソフトランディングさせるために、WXシリーズの「擬態」能力を活かしました。しかも無料で。Microsoft が IME を独自開発するようになってからも、ATOK VJE WX の各スタイルが残されています。一方で、有料の IME として生き残っているのは ATOK だけとなって幾星月。
悪貨が良貨を駆逐する
MS-DOS(PC-9801)時代に一世を風靡した日本語ワープロソフト「一太郎」とそのFEP「ATOK」の二大発明が、「ESCメニュー」と「スペースで変換する」でした。識者から「(意味性を無視した)とんでも発明」とディスられても、その分かりやすさが市場で圧倒的に支持されました。一太郎は Windows 時代に入って MS-Word に淘汰されましたが、「スペースで変換する」はデファクトスタンダードの座を未だ守り続けています。
日本語入力とWindows という名の桃源郷≒カオス
- OADGキーボードが、後にJISキーボードと呼ばれるようになった。
- OADG協議会は、基本的にはハードウェアヴェンダーの集まりだった。
- ハードウェアメーカーは、PCの「器」のみを提供した。
- その器には、Microsoft の OS「Microsoft Windows」がプリインストールされた。
- 日本語入力のしやすさを競うことは、コストアップ要因になりこそすれ、売り上げ増には結び付かない。
- ハードウェアメーカーにとっては、コスパこそ最大の差別化だったり。
- ってことで「仏作って魂入れず」状態が Windows 3.1 の時代から延々と続く。
- でも、そこに器がある。素材がある。やるも、やらないも、自由だ。
- やる気になれば、扉はいつでも開いている。インストールするだけで使えるアプリもあれば、ファームウェアを弄ぶことだってできる。
- [無変換][変換]の二つのキーを、大きな可能性を秘めた手付かずの大自然ととらえるか、無能の極みと切り捨てるか。それも自由だ。
- 沼に溺れるのもお好きなように。
後方互換を重視する PC と Microsoft
- 2021年に販売されているPCにも、PS/2ポートやVGAポートがまだまだ残っている。AT端子は流石に見ない。
- 探せば RS-232C やパラレルポート、SCSI なんていうレガシーデバイスがまだ使えたり。
- ワードスター準拠のダイヤモンドカーソルが使えたり。
- Lotus 1-2-3 準拠の「/」(スラッシュ)メニューが excel で使えたり。
- Windows 10 でも DOS 窓を開けば MS-DOS 時代のコマンドが使えたり。
- DOS/V 用アプリケーションも動くかも。一太郎とか Lotus 1-2-3 とかも。ただし、印刷できるかは謎。
- 16bit アプリの「親指ひゅんQ」も、デスクトップアプリ上ではまだ使えるかも。※未検証です。
- 方や ADB ポートとか Firewire なんかは既に絶滅した?
- リマッパーの屍の累々。
デザインを牢獄と慄くか、カオスを無能と罵るか
それは私たちの人生の選択そのものだ。本日はここまで。