2008年01月07日

「親指シフトウォッチ」と「親指シフト」

せっかくコメントをいただいたのに、考えがまとまらなくて放置プレーになってしまっていて申し訳ないのですが、雑記/えもじならべあそび(相沢かえでの無変換な水木土日記) > 親指シフト・ケーススタディー(フィンランド語) という記事とコメントを読んで、見過ごせない話題だと思ったので、こちらを先に採り上げます。

話は少しさかのぼりますが、かえでさんと私のやり取りをまずはご覧ください。

かえでさんの記事

ところが、近々のはてな質問で説明がNICOLAから逸脱してしまった原因として、間違いなく「小梅」の存在によるものがあったわけで……NICOLAの環境を「(配列差し替えを除けば)まったくいじることなく使える」ってのは、それだけ強力なポイント。こうなると、「小梅」のほかに重複して「NICOLA」を推す場合に、一体どうすればいいのだろうか……と、いくら考えても自分を納得させられる答えが出てこない。

飛鳥との対比であれば、過去も現在も変わることなく「対応している環境とかエミュレータの種類が違う」というアドバンテージがあるから説明しやすかったのだけれど、「小梅とNICOLA」って、いったいどう住み分けしていると説明すればよいのか……。

141F のコメント

  • Nicolaが最新・最良・唯一の親指シフト
  • 専用キーボードがないと親指シフト=Nicolaは使えない

新規のユーザ(候補)か長年のユーザかを問わず、上記のように思い込んでしまっている=1980年代の情報で思考停止している人が、『親指シフトウォッチ』のよくあるパターンのように、少なからず見受けられます。親指シフターの一人としてもどかしさを覚える一方で、「またかよ」と感じてしまうのも事実です。

こんな流れの後で、上記記事に対する gicchon さんのコメントに強い違和感を覚えました。

gicchon さんのコメント

> 親指シフト方式配列について毎回思うのは、これは「現地で普及しているけん盤でそのまま実装試験/評価打鍵を行うことはできない」というところ

これについてはほぼ諦めている状態です。難しいけど、やはり親指シフトは専用キーボードでないとフルポテンシャルは発揮できないと考えています。

親指シフトを二分する理論

つまり、専用キーボードが必要か否かによって、「親指シフト」は二つの理論に分類できるようです。

特殊親指シフト理論
Nicola
Tron
一般親指シフト理論
飛鳥以降の、「かえであすか」や小梅を含む新しい親指シフト各配列

「親指シフト」を専用キーボードに縛り付けることへの懸念

冗談はさておき、私 141F は現在の Nicola の立ち位置をこのように捕らえています。

  • 親指シフトの日本語配列として、ユーザ数は最も多い
  • 親指シフトの日本語配列として、現在の水準からすると性能はイマイチ

「日本語配列として優れているから」という理由で Nicola の新規習得を他人にお勧めすることは、2008年の現在では、USB端子が付いていないPCを他人にお勧めするのと限りなく近い行為に、私には思えます。ましてや、専用キーボードを買って覚えろだなんて、自分自身でもやらなかったことは口が裂けても言えません。私が Nicola を「レガシーな親指シフト」と呼んでいるのは、このような理由からです。

そしてもう一つ、親指シフトと専用キーボードの紐付きを強くしてしまうことは、かえって親指シフトの首を絞めてしまっているのではないか。かような懸念を強く抱いています。

  • 専用キーボードが生産中止になってしまったから、
  • 専用キーボードの市場在庫がなくなってしまったから、
  • 専用キーボードの新製品が出てこないから、
  • 手持ちの専用キーボードが壊れてしまったから、

ロウソクがいつかは燃え尽きてしまうように、ハードウェアの消滅がそのまま親指シフトユーザの減少に直結してしまっていいのでしょうか?

「親指シフトウォッチ」と「親指シフト」の関係

あるいは親指シフトに興味を抱いている新規ユーザ候補がいたとして、

  • 効率の良い入力方式として「親指シフト」に興味を持っている
  • まずはお試しのつもりなので、専用キーボードを買う気はない
  • 親指シフトを簡単に試せる方法はないか

このように訴える人に対して、親指シフトウォッチ を主催する gicchon さんがどのように答えるのがベストか、僭越ながら考えてみました。

  1. 専用キーボードでないとフルポテンシャルが発揮できないから、専用キーボードの購入を促す
  2. 専用キーボードでないとフルポテンシャルが発揮できないが、JISキーボード+エミュレータでNicolaを使う方法を紹介する
  3. 専用キーボードでないとフルポテンシャルが発揮できないから、JISキーボード+エミュレータで他の親指シフト配列を使う方法を紹介する
  4. 専用キーボードでないとフルポテンシャルが発揮できないから、親指シフトへの移行を断念させる

『親指シフトウォッチ』としては (2) 以外の答えだと矛盾しませんよね。この認識でよろしいですか?

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posted by 141F at 02:12| Comment(9) | TrackBack(0) | oyayubi | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
141Fさん
取り上げていただきありがとうございます。
このような新規ユーザー候補の要求は大変厳しい(しかし、もっともありがちではある)ので、意を尽くして間違いないように答えるのは大変ではあります。

本題に行く前に、専用キーボードと配列の問題について、一言クラリファイしておきます。
私が専用キーボードと言ったときに、それが自動的にNICOLAになるというと必ずしもそうではありません。キートップの印刷がそうだからといって、NICOLAを使わなければいけないということにはならないし、USBキーボードだったら、エミュレーターの仕様次第で他の配列にすることも簡単にできるからです。
とはいえ、私はこれから親指シフトを使おうとしている新規ユーザー候補に対してはNICOLAを勧めるでしょう。その理由については、これも長くなるのでここでは議論しませんが、いずれにしても、そのことと専用キーボードの問題とは別なのです。

以上述べた上で、専用キーボードの議論に戻ります。私がなぜ「専用キーボードでないとフルポテンシャルが発揮できない」と言ったかというと、私が考える親指シフトの本質的な部分は「親指と他の指の同時打鍵がもっとも自然な方法で、一つのキーを3通りに活用させられる」ということであると思っているからです。これは優れて、人間の生理的構造に関係するものであり、いわば物理的なデザインに関するものなのです。こうした物理的なデザインに関しては、それなりに考えられ作られたものでなければ本来意図した性能を発揮することは難しいと考えています。

さて、最初に戻って、新規ユーザー候補に対してどのように言うかというと、長く、説明的になりますが、おそらくこのようになるでしょう。

「親指シフトを試そうということで感謝します。親指シフトは現在、使っている人が大変少数派なので、使おうと思えばそれなりにやらならければならないこともあるし、妥協をしないといけないこともあることを最初に理解しておいてください。親指シフトの入力方法は人間の生理的構造に素直なものなので、本来は専用キーボードを使うのが一番良いのですが、残念ながら選択肢が少なく、値段もそれなりにします。また、将来も専用キーボードが販売され続けられるか保証があるわけでもありません。こうした状況から、専用キーボードではなく、普通のJISキーボードを親指シフト用に流用する方法が開発されており、それを使って親指シフト入力をしている人も多くいます。既に述べた通り、親指シフトを実現するには専用キーボードが一番良いと私は信じていますし、コストだって親指シフトを使えるようになることで取り返せると思います。なるべく簡単に親指シフトを試したいというのだったら、JISキーボードを使って親指シフトをやってみるというのも手かもしれませんが、それがあまり快適でなかった場合は、もしかしたら、それは専用キーボードを使わないためかもしれません。私がお願いしたいのは、完全に性能が発揮できない状態で使って良くなかったからといって、親指シフトという考え方が間違っていると言ってほしくないのです。なお、親指シフトを使った入力方法でも、文字の配列はいろいろな可能性があります。私はもっとも普通に使われているNICOLAを勧めますが、他の配列を試す方法もあります。」

こんなところで答になっていますでしょうか。
Posted by 杉田伸樹(ぎっちょん) at 2008年01月07日 22:46
想像以上に丁寧な回答を用意されていたのですね。親指シフトの新規ユーザ(候補)に向けた、ぎっちょんさんの方針は理解(≠納得)できました。コメントありがとうございました。

私自身は先の発言の通り、専用キーボードは親指キーと変換/無変換キーが分離している構造がかえって煩わしい、という主張を変えるつもりはありません。疑問を感じたらまた問うてしまうこともあると思いますが、親指シフト全体にとって前向きでありたいと常に心掛けているつもりです。その時はまたよろしくお付き合いください。

ところで、

> 親指シフトという考え方が間違っていると言ってほしくないのです。

「合う/合わない」「好き/嫌い」と「正しい/間違い(正しくない)」は、使うべき局面が違うと主張した方がいいかもしれませんね。エクスキューズばかり増えてしまいますが。
Posted by 141F at 2008年01月08日 00:53
>想像以上に丁寧な回答
このようなことは、これまで心の中では考えていたし、断片的にはいろいろなところで書いていたのですが、このようにまとめた形のものははじめてです。自分の言いたいことを過不足なくきちんと書くというのはなかなか難しい作業で、結構難渋しましたが、おかげさまでなんとか書けました。141Fさんが問いかけをしてくれたので、まとめられたと感謝しています。

>親指シフト全体にとって前向きでありたい
これが大事ですね。親指シフトはいろいろな可能性があり、それらはまだ開拓の余地が大いにあると考えています。141Fさんのような違った配列を考えるのも、私が日本語以外での応用を考えるのも、底に流れるものには共通なものがあるような気がします。

>エクスキューズばかり増えてしまいますが
一般的に言って、マイナーなものを人に勧めるのは大変勇気がいります。自分が良いと思うものを勧めるのに躊躇してはいけませんが、それでも、十分な説明が必要だと思います。それがエクスキューズのようになってしまうのはつらいところですが、説明もなしに押しつけることはうまくいかないし、よしんばできたとしても「だましている」という気持ちが常につきまとい、精神衛生上良くないですね。
Posted by 杉田伸樹(ぎっちょん) at 2008年01月08日 23:07
 だいぶレスポンスが遅れてしまってすみません。
 何かが引っかかっていてスッキリしなかったのですが、kouyさんからコメントを頂いて、ようやくひとつの理由が判明しました。
http://d.hatena.ne.jp/maple_magician/20080110/1199901206#c1199985493
 親指シフト方式専用に作られた(またはそれに向く設計となっている)わけではないキーボードを使って親指シフト形配列を設計/調整する場合、どこをどう弄っても「完全に快適なけん盤配列」を設計するのは無理で、どうしても「低頻度かなの打鍵コストが高くなるように設計することで、全体的には影響が及びにくいけん盤配列を作る」という方針を採ることになります。
 この点については、「低頻度かなの入力が高コストになっても気にならない」という方もいれば、「低頻度かなの入力も含めて、少しでも高コストになると気になる」という方もいる……という事情がありそうです。
 また、配列側についても、たとえば連続シフト系のけん盤配列が「人差し指の動作範囲を制限するように作りこむ必要がある」ように、あるいはNICOLA/TRONが「人差し指絡みの運指を専用キーボードに依存していたり」するように……配列側の設計指針とも絡んでくるところもあるといえそうです。
 ゆえに、「必要か否か」の二分法で表現するよりも、もしかすると「必要だと思う方がどの程度の割合でいるだろうか」という方向で考えてみるほうが、よりスッキリする話になるのでは……と考えています。

 もうひとつの点についてはスッキリしないところがありまして、いま「かえでにこら(仮称)」が設計可能かどうかを検討中です。
 NICOLA設計者の池上さんが、もしも「現時点で広く普及しているキーボードと資料を基にNICOLAを設計していたら……」というifを考えることで、「池上さんが誰のために/どういう頻度で使うユーザのためにNICOLAを作ったのか」というところが、もう少し見えてくるのかも……と考えていまして。
 いまのところ、「ぱぴぷぺぽ」が小指シフトに割り当てられたのは「打算ではなく必然だった(他によいアフォーダンスを提示するアイデアが得られなかった)」のではないか……というところは見当がついた気がするのですが、「は」「き」「。」「,」「、」の謎を含めて見えていない部分もあり、このあたりはもう少し検討を要するかな、と考えています。

 いずれにせよ、NICOLAを「ユーザがそれぞれに組み立てたメンタルモデルを経由して説明した姿」ではなくて、「OASYS開発部隊が夢見た姿」で広く説明しようとするには、もうすこし実験や検討が必要になるのかもしれません。
 どれくらいの期間が掛かるかはわかりませんが、できれば「親指シフト」の設計期間と同じぐらいである程度の答えを見つけられればいいなぁ……と、かなり無謀なことをしようとしていたりします^^;。
Posted by かえで(yfi) at 2008年01月11日 19:05
非常に細かな突っ込み。

>専用キーボードは親指キーと変換/無変換キーが分離している構造

親指キーと変換/無変換キーの分離は、確かに今販売されている専用キーボードではそのようになっていますが、親指シフトの歴史を見ると、携帯型のOASYS(Pocketや30-AD301)で親指キーと変換/無変換キーが一緒になっています。

そして、このことは親指シフトユーザーから反撃を受けることなく、むしろ親指シフトを携帯できると歓迎されたのです。

一方で、親指キーの空白キーの両側に置いたLOOX-S(メーカーは**敢えて名を秘す**(笑))の場合は親指シフトユーザーからの相当な反発があったのです。

これから考えると、親指シフトユーザーにとって重要なのは、親指シフトキーの配置や物理的形状が使いやすいものになっているか、という点に集中していると私は思っています。
Posted by 杉田伸樹(ぎっちょん) at 2008年01月14日 11:56
訂正です。

親指キーの空白キーの両側 → 親指キーを空白キーの両側
Posted by 杉田伸樹(ぎっちょん) at 2008年01月14日 14:42
昔の話の蒸し返しのようで恐縮ですが・・・。
このたび発売された新しいUSB親指シフトキーボードでは、親指シフトキーと変換/無変換キーが物理的にも共用になっています。これが親指シフトユーザーにとってどの位使いやすいのかは、使用レポートが出てこないと分かりませんが、いずれにしてもメーカーがこのようにしても良いと判断したことは、私の考えをサポートする材料ではないかと思いますがいかがでしょう。
Posted by 杉田伸樹(ぎっちょん) at 2008年09月10日 23:10
コメントが遅くなりました。
「私の考え」がどこを示すのかイマイチ分かりにくいのですが、

>やはり親指シフトは専用キーボードでないとフルポテンシャルは発揮できない

引用者注:引用部の「親指シフト」はNicolaとイコール。

ということでしたら、別記事で示したように現在はこれに賛成です。
Nicolaの親指キーが独立型がいいか共用形がいいかについては、どちらでも好きなものを選べばいいとしか答えようがありません。
Posted by 141F at 2008年09月15日 01:15
>「私の考え」がどこを示すのかイマイチ分かりにくい

確かにおっしゃる通りで、申し訳ありません。一番直接に関係しているのは、1月14日 11:56の私のコメントにある、

>親指シフトユーザーにとって重要なのは、親指シフトキーの配置や物理的形状が使いやすいものになっているか、という点に集中している

です。つまり、親指シフトキー共用型の専用キーボードが現れたことは、親指シフトユーザーが気にするのは、まずは親指シフトキーの配置である(と少なくとも富士通は考えている)ことの証拠ではないかということです。

>やはり親指シフトは専用キーボードでないとフルポテンシャルは発揮できない

は、直接ではないにしろ、上記の考え方の延長にあるものと考えています。
Posted by 杉田伸樹(ぎっちょん) at 2008年09月15日 21:22
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