私は普通のキーボードで親指シフトすることに賛成できません。だから、普通のキーボードで親指シフトが使えるようにします。
用語を選ばないと意味不明ですよね。修正します。
私は普通のキーボードで Nicola 配列を使うことに賛成できません。だから、普通のキーボードで親指シフトの日本語配列が使えるようにします。
なぜ Nicola 配列は、専用の親指シフトキーボードを使わなければいけないのでしょうか。Nicola 配列が専用ハードウェアに依存する理由について述べることは、飛鳥と小梅が《論理配列》というカナと記号を並べたものにどのような工夫を施したのか、その一端を解き明かすことでもあります。
そこで表題について、1つの記事にまとめてみます。同じ主張の繰り返しで、新しい提案は一つとして含まれていないかもしれませんが、よろしくお付き合いください。
なお、「論理配列としての親指シフト」については「 Nicola 配列」、「シフト方式としての親指シフト」については「親指シフト」と、本稿では必要に応じて用語を使い分けます。また、論理配列に直接関わらない事項については触れません。
専用の親指シフトキーボード
親指シフトの嚆矢となったワープロ専用機 OASYS は左右2つの専用[親指]キーを設けて誕生し、その仕様は現在のPC用親指シフトキーボードにも脈々と引き継がれています。

私自身は OASYS や富士通のキーボードを購入したことはありませんが、PC-9801ユーザだった当時はアスキー AsKeyboard de SE3 という、サードパーティーから発売されたテンキーレスの専用キーボードを使っていました。

親指シフトの日本語配列(論理配列)がキーボード(物理配列)に求めるもの
この2つが、親指シフトを使うための必要条件となります。
キーボード選びの理想と現実
普通のキーボードで親指シフトを使おうとすると、普通のキーボードには[親指]キーがありませんから、何か他のキーで代替することになります。最下段に並んだ[無変換][スペース][変換]など親指で押しやすいキーを「親指」キーとして使うのが一般的ですが、どんなキーボードでも親指シフトが使えるわけではありません。キーボード選びが難しいのが、親指シフトの欠点の一つです。
B割れのキーボード

[B]キー直下で[スペース]キーと他のキーが分かれているキーボードは、《B割れ》と呼ばれて親指シフトがやりやすいと評判ですが、滅多なことでは市場に出てきません。
[無変換]キーが[V]キー下にあるキーボード
![[スペース]キーが短いキーボード [スペース]キーが短いキーボード](http://61degc.up.n.seesaa.net/61degc/200602/btc8113w.jpg?d=a0)
[無変換]キーが[V]キー下にあるものも親指シフトがやりやすいキーボードですが、探してもなかなか見つかりません。
[無変換]キーが[C]キー下にあるキーボード

人気の Realforce シリーズ も、[無変換][スペース][変換]といったキーの配置は、画像のキーボードとほぼ同じです。[無変換]キーと[変換]キーを「親指」キーとして使うには、これぐらいが限界です。
微妙に使えないキーボード

微妙な差ですが、[無変換]キーが左側に寄るほど、[変換]キーが右側に行くほど、親指シフトとして使うには苦しくなっていきます。
親指シフトとして使えないキーボード
Filco ブランドから発売されている Majestouch2 シリーズ のように、[変換]キーが[,]キー直下ぐらいまで右にずれてしまうと、親指シフトで入力するのは絶望的です。
キーボード選びを少しでも楽にするために

小梅配列は[スペース]キーを「左親指」キーとする前提で作成しています。[変換]キーが[J]キーの下に掛かっていれば十分で、[無変換]キーがどこにあるかは問いません。たったこれだけでも、キーボードの選択肢がずいぶんと広がります。
先ほど掲げた《微妙に使えないキーボード》でも、[スペース]キーを「左親指」キーにすることで、小梅配列を支障なく使うことができました。
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親指キーと人差指伸
親指は[親指]キーに常に束縛されているため、隣り合う人差指は道連れとなって行動が規制されがちです。このため、ただでさえ遠く感じられる人差指伸が、親指キーの位置が左右に広がるほどさらに遠くなっていきます。専用キーボードの[親指]キーが[B]キー下に並べてあるのは、[T]キーや[Y]キーを打ちやすくするために不可欠な措置でした。
親指キーが理想的な位置にないという物理的な制約を、飛鳥と小梅は論理配列を工夫することで回避しています。一目瞭然のキー別打鍵頻度グラフをご覧ください。
キー別打鍵頻度グラフ

Nicola 配列を普通のキーボードで使うと、[T]キーや[Y]キーの遠さを、打鍵する度に体感してしまいます。

連続シフトを採用した飛鳥は、人差指を伸ばして打鍵する[R][T][G][B][Y][H][U]の各キーを使わないという大胆な設計で、人差指伸の遠さを感じさせません。

小指伸を嫌った小梅は、人差指の速さを活かしつつ、人差指伸の遠さを感じさせないよう、細心の注意を払ったカナ配置にしています。[G]キーを積極的に使っているのは、[空白]キーを「左親指」キーにしたからこその芸当です。
キー別打鍵頻度の等高線グラフ
上記の傾向は、等高線グラフにもはっきりと現れています。



同手シフトの指別打鍵数グラフ
さらに、同手シフトがどの指で発生しているのかを確認します。例えば Nicola の「を」は、[A]キーと[左親指]キーの同手シフトで打鍵しますが、これを[左小]と[左親]の双方でカウントしてグラフにしました。左右親指の数値は、左手側・右手側の各々の同手シフト頻度の合計に等しくなります。

蜂蜜小梅配列とかえであすか配列は、左手人差指伸から同手シフトを追放しているのが分かります。小梅配列も《遠いキーほどシフトを減らす》ルールを遵守しているのが見て取れます。これも人差指伸の遠さを体感させない工夫の一つです。普通のキーボードで親指シフトするためには、このような仕掛けが欠かせません。
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親指シフトの打鍵負担
キーボードを打鍵する動作は、一般的には
- 指の力:握力
- 手や指の重さ:重力
- 手や指を振り下ろした勢い:慣性力
等が渾然一体となって行われていると考えられます。
親指シフトの打鍵は、私達人間の指というのは、親指と他の四本の指を同時に動かし、物を掴むことができるようになっています。
と、物をつかむ動作に例えられます。つまり親指シフトは、握力を使う打鍵であると言えます。
しかも同手シフトの打鍵動作は、親指シフトではない打鍵動作に比べて、
- 親指が「親指」キーに固定されているため、重力や慣性力を利用しにくい
- 片手の1動作で親指と文字の2キーを同時打鍵するため、2倍の押下力が必要
という2つの理由で、より大きな握力が求められます。《キータッチが軽め》なことが親指シフトを使うための必要条件とされるのは、握力が文字通りに大きなポイントを握っているからです。
Nicola 配列に専用の親指シフトキーボードが必須なのは、負担を軽減するためには軽いキータッチが不可欠だからに他なりません。
握力は利き手と非利き手の差が大きいから
私の握力は二十歳ぐらいに測った記憶では、左手20kgf:右手40kgf ぐらいでした。アラフィフの現在は、左手15kgf:右手30kgf ぐらいまで落ちていても不思議ではありません。
普通のキーボードのキータッチは千差万別。タッチが重いキーボードだと、利き手ではない左手の、指の節々が真っ先に悲鳴を上げます。廉価なキーボードでも親指シフトを実用できるように、飛鳥は利き手の強さに活路を見出しました。
デスクトップPCに付属するメンブレン式キーボードをターゲットとした飛鳥は、左手37:右手63という極端な左右差で、配列界隈に物議を醸しました。左利き用のレフティー飛鳥は評価待ち中です。
後を追った小梅配列はノートPCをターゲットに据えて、パンタグラフ式キーボードでも問題なく使えるように評価打鍵を重ねて、左手:右手=43:57というバランスに落ち着きました。小梅配列は右利き専用です。

単純な左右の負担差だけでなく、利き手ではない左手側の同手シフトを減らすことも、普通のキーボードで親指シフトするための大きなパラメータとなります。
親指シフトの火を消さないために
小梅配列は誕生時から、
- ( Nicola + Tron + 飛鳥)÷ 3 ≒ 小梅配列
と謳ってきました。先達のどれか1つでも欠けていたら、小梅配列は今の姿とは違ったものになったことでしょう。
また、Nicola スレと新下駄配列がなかったら、蜂蜜小梅配列は生まれませんでした。専用キーボード以外の親指シフト環境は《まがいもの》だと一切認めない、言わば原理主義者たちの存在は、本当に刺激的でした。
彼らと私 141F との関係性は、同じものを表から見ているか、それとも裏から見ているかという、表裏の関係だと思っています。彼我の差は、Nicola という論理配列に見切りを付けたか否かの一点に掛かります。表裏一体だからこそ議論は平行線をたどり、永遠に交わることがありません(笑)。
ホトトギスの逸話に例えるなら、「ホトトギスが鳴かない」=「普通のキーボードで親指シフトする(Nicolaを使う)のは無理」という現状認識は、双方に共通しています。そして、鳴かないなら殺してしまえと彼らは主張し、鳴かせてみようと私は今日もこうして文章をしたためているわけです。鳴くまで待つ時間は、とうに過ぎてしまいました。
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